初めて金縛りに遭ったのは小学生の時だった。
覚えていないけど、たぶん高学年の頃。
夜中、ふと目を覚ましたら何か変な感じがして、
そしてそのまま動けなくなった。
今となってはあれが神経の働きか、
もしくは幽霊の仕業なのかは分からない。
けれどもその時はめちゃくちゃ怖くて、
ひたすら眠っているフリをしながら
気配が過ぎ去ってくれるのを待っていた。
きっと熊に遭遇しても同じことをしただろう。
金縛りに遭うような云われはない。
ただ、一点あげるなら、その日たまたま家の中に出た大きな蜘蛛を
シッシッと追い払ったことに思い至る。
蜘蛛→ 糸→ 縛る→ 動けないという連想から
どうもあの蜘蛛をいじめたことに原因がある気がして、
その日以降、僕は蜘蛛に優しく接するようになった。
比較的生きもの全般に優しい方だが、
今でも取り立てて蜘蛛に親切なのは、
きっとそのことがそのまま習慣になっているのだろう。
そういえば芥川龍之介に『蜘蛛の糸』という短編がある。
地獄に落ちた悪人カンダタが、生前に一度だけ蜘蛛を助けたことから
仏に救いの手を差し伸べてもらえるという話だが、
カンダタにさえ蜘蛛の糸が一本垂らされるのだ。
僕だったら一本と言わずに何本かまとめて垂らして貰えるんじゃないかと
いやらしい打算をしている時点で、救いようがないのかもしれない。
なんと、現代の科学力をもってしても、
細さ×軽さ×強度の点で蜘蛛の糸を上回る繊維は存在しないという。
死後に垂らしてくれだなんて、都合のいいことはもう言わない。
自分で吊り下がる糸は自分で作る。
なので、仏さまにはどうか蜘蛛の糸の人口レシピを教えていただきたい。
いちおう特許権も貰っておきたい。
今後とも蜘蛛には優しくするゆえ、
どうかご利益の便宜をはかってはくれまいか。
だって、僕はいま文字通りの金縛り(かねしばり)、
もとい貧乏に身をすくめられているのだから。
もとい貧乏に身をすくめられているのだから。
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