2019年9月5日木曜日

読書の切れはし その②




 人間は誰でも毎日親しくしている友だちの影響をうけて、知らず知らずのうちに良くも悪くも変わるものです。それで昔から「朱に交われば赤くなる」といって、良い友だちを選べ、という格言が世界中にありますが、同じように、毎日いっしょにいるもの言わぬ友だちも、人に強く影響を与えますから、私どもは用心せねばなりません。

 もの言わぬ友だちというのは、毎日私たちといっしょにいる道具類のことです。人間は誰でもみな丸裸で生まれて来ますけれども、必ず多くの道具を使い、それにたより守られて、長い一生を暮らしています。その道具が良いか悪いか、美しいか汚いかで人間の心がけが変わるのです。たとえば、運動服を着けると勇む心が起こり、寝間着を着るとゆるんだ心になります。見せかけの、形も色も悪い道具類を毎日使っていると、心まで粗末になってしまいます。ですから形も色も良く、たよりになる健康な美しい道具を選びたいものです。



外村 吉之介 『少年民芸館』より



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