2019年2月27日水曜日

天さえ仰げば



10代の頃の話だ。

駅のホームで電車が来るのを待っている時
ふと気が付くと、向こう側の空に銀色の金属体が浮いていた。

それは明らかな人工物で
確か円柱状のような形だったと記憶している。

距離感から推し量るに、それなりの大きさなのだろう。
移動することなくずっと空中に留まっていた。

不思議ではあったが、周囲の誰も騒ぎ立てないことから察するに、
きっと大したことではないのだろうと思うことにした。

よく人工衛星をUFOと勘違いするという話を聞いたことがある。
さてはあれが人工衛星というやつだな、と独りごちながら僕は昼下がりの電車に乗り入った。

翌日、クラスの物知りに人工衛星の打ち上げが近所であったか聞いてみたが、
「さぁ、知らないなぁ」とのことだった。そりゃそうだろう。


今にして思えば、人工衛星をUFOと誤認するのは夜間の話である。
飛行機とはまた違う動きで光を放つから間違いやすいのだ。
ましてや市街地の上空に人工衛星が姿を現わすわけがない。

我ながら呑気な話であるが、それでも未だに覚えているということは、
やはり何処か腑に落ちない、印象に残る不可思議さがあったのだろう。


あれの正体は未だ分からない。
もしかしたら本物だったのかも…

何はともあれ、未確認飛行物体を見たのはあれきりだ。

勿体ないことをした。
あの時もっと観察をしておけば良かったと思う。

稀代のチャンスを逃してしまったような気もするが、
どうだろう、果たしてそうなのだろうか。

と言うのも、あの頃に比べて今、自分がどれほど空を眺めていられるか、
あまり自信がない話だからだ。

天さえ仰げばチャンスは存外、中空に漂っているものなのかもしれない。
その機会を失しているのは、うつむいてばかりいる自分のせいだ。

こうしてコンピュータの画面を睨んでいる今でさえ、
見上げてみれば宇宙船の窓から銀色エイリアンが手を振っているかもしれぬのだから。


陽気もよくなった。空飛ぶ円盤でも探しに出よう。


そんな訳で、聴いてほしい。
カエターノ・ヴェローゾで『LONDON LONDON

















2019年2月21日木曜日

オペラさん




実家の近くにオペラさんは住んでいる。

実家というのは、僕の実家のことであって、
彼の出身については何にも知らない。

そもそも本名も知らないし、年齢も分からない。
それに顔だって見たことがないし、話しすらしたことない。

オペラさんという名前も、
僕が勝手につけた。

けれども男性なことだけは分かる。

いつも家の前を通りかかると、
大きな声でオペラの歌を唄っているのが聞こえてくるから。

唄っていない時も大音量でオペラの曲がかかっている。



よほど歌劇が好きなのだろう。

僕もオペラさんが好きである。

顔や人となりは分からなくても
楽しそうなのが伝わってくるから。

人の “好き”や“楽しい”に触れるのはこちらも嬉しい。



実家からオペラさんの家までは数十メートル。
そのくらいが丁度いい距離かもしれない。

彼のことは好きだけど、正直、隣に住むのは勘弁願いたいと思うから。

人の“好き”は嬉しいけれど、押し付けられるとうんざりしてしまう、
少しそれと似ているかもしれない。






劇団四季のライオンキング






劇団四季のミュージカル
『ライオンキング』に行ってきた。

20周年を迎えた超ロングラン公演のお芝居だ。
いまさらの説明は不要だろう。

これまでライオンキングに特別の関心はなかった僕が
なぜ、今回の観劇に至ったかといえば、

それは実はうちの子が、同演目の主題歌『CIRCLE OF LIFE』を聴くと
100%の確率でピタリ泣きやむという不思議な性癖を持っているからであり、
さらに曲に合わせて抱き上げてあげると更にその効果が上がるのだ。

ならば本場のパフォーマンスを学んで「あやし」の技術を上げようという、
今回の観劇は研修としての側面が大きい。


そもそもの端緒は簡単なことだった。
泣いている子を抱き上げる時、興を添えようと『CIRCLE OF LIFE』をかけてみたのだ。

https://m.youtube.com/watch?v=ewOAsUWQJvo

観たことはなくても、王様ライオンが生まれた子供を抱き上げる
あの有名なシーンくらいは知っていた。あれの真似事だ。

そうしたらそれが覿面の効果を発揮した。
以降、ライオンキングが我が家の子守唄となったのだった。


ストーリーがどうこうというお芝居ではないだろう。
しかしそれにつけても演者さん一人一人から伝わってくる
日々のたゆまぬ努力には心からの敬服を覚えたし、

演出や舞台装置など全般含めて非常に面白い、
満足いくエンターテイメントだった。

途中、途中、お芝居そのものよりも、
衣装や小道具などの作りに興味が移ってしまったのは、
きっとガジェット好きに共通のことだと思う。

劇中、出演者が自在に振り回していた鳥の模型が特に気になって仕方がなかった。
終演までにその設計や素材を解き明かそうとしたけど能わず。

帰途、東急ハンズの素材コーナーに寄り道したのは、ヒントを求めてだ。


実際のところ、 ミュージカル『ライオンキング』を生で観たところで
ベビーシッティングの技術が上がることはないだろう。

けれどもいい経験になったし、
しばらく疲れが溜まっていたので、いい気晴らしにもなったと思う。


鳥の模型の作り方はまだ分からないけれど、
本格的なものを中国では盤鷹(パンイン)というらしい。
研究していつか我が子とブンブン振り回してみたいものだ。

もし上手く出来なくても
失敗した時にはこう言えばいいとシンバ君に教わってきた。

ハクナマタタ!

意味は忘れた、が。





























2019年2月19日火曜日

たまさかの響きを尋ねて



最近、ジョン・ケージの作品の中から、
とくに心地よいと思える曲を探して聴いている。

ケージと云えばキノコである。

彼は現代音楽の巨匠でありながら
熱心なキノコ研究家でもあった。

音楽に偶然性を求めた男は、
キノコとの出会いもチャンス(偶然)であると のたまっていた。











写真のランプは、タマゴタケであろう。

(おいしいよね)


お世話になっている ねじまき雲 さんにて。

2/22 - 2/26







人とのご縁もまたチャンス・オペレーションである。

人世は押しなべて偶然の織りなす音楽だ。
永い永い、4分33秒間とも言えるだろう。

袖すり合うも他生の縁。
すれ合う袖の衣擦れ音が鳴り重なって音響風景をかたちづくる。

それは協和か、不協和音か。

人の所縁も畢竟 偶然によるプリペアド。

邂逅遭遇のたまゆらのなかで、
誰もが心地よい響きを探しているのだ。

たまさかの響きを尋ねて さぁ 往こう。









2019年2月16日土曜日






展示初日、

作家在店にも関わらず
木曜 coffee & quiet
私語禁止というこの仕打ち。


杉江玲子
砂のあしあと

本日 2/14より始まりました。

是非 足をお運び下さい。



木曜以外でしたら、
小さな声でお喋りできます。




2019年2月13日水曜日

いも遊び その2





ひそひそ、


ヒマダのあいつ、いも揚げて食べてるらしいぜ。


あぁ、40にしてポテチを覚えたんだってさ。


おじさんは揚げものが好きだからね…



あ、いも太郎先輩。







よう、おまえら!



ち〜す!






2019年2月10日日曜日

砂のあしあと








僕は決して無口ではないのだが、
大切なことはあまり人に話さない。

栓を抜くと どんどん気も散じてしまう
炭酸飲料に感覚は近いかもしれない。

保存が効かなくなるトマト缶に例えても構わない。

要は大切なことも一度蓋を開け、外気に晒すと
なんだか劣化してしまう気がするからなのだ。

胸のうちに留めておくがよろしい。



店をやりたいことも、
店を始めることも、
屋号のことも、殆ど人には話さず
ひっそりと始めた。

けれどもたった一回だけ
“やるならヒマダコーヒー って名前がいいんだよね”って、
人に話したことを覚えている。

今から7~8年前なので、
店を始めるずっと前になる。
思えばその頃からネーミングを温めていたのか。

相手は杉江玲子とその旦那だ。
(当時はまだ籍を入れていなかった筈だが)

彼らについて、以前からの友人であること 
それ以上 多くは語らない。

それはナイーブな、秘めた思い出だからというわけでは全然なくて、
ただ単純に、知り合ったそもそもなどを説明するのが面倒なだけなのであるが、

何はともあれ、
大切な気持ちを話すことが出来る相手ということだけは伝えられた筈だ。






江玲子

『砂のあしあと』

2019年2月14日(木)−2月24日(日)

ヒマダコーヒー でやれることを心から嬉しく思う。

約束してもいない約束ごとを、
ひとつ実現できた気分だ。

砂についたあしあとは、
はかないながらも、どこまでもずっと続いていく。


こどもの顔や小さな足、
冬の海のそば、静かな喫茶店での彫刻展



存分に愉しんでほしい。























寂日





2月9日、たまに雪。


今日はさび〜

リアル暇だコーヒー。

注文していた本が届く。

このまま読書でもしようか。


番茶がうまい。

塙書房は激しく渋い。

何はともあれあくびをひとつ。


……



お、来客。

常連さんと窓越しの雪を見る。

どこかで鳥が啼く。



さびてるなぁ。



「ちやのゆに残る雪とひよ鳥」とは芭蕉の付合い。


こういう日もいいものだ。







2019年2月1日金曜日

ホット・チョコレート・ジンジャー





新メニュー

ホット・チョコレート・ジンジャー

人生は甘くて苦く、ピリリと辛い。