実家の近くにオペラさんは住んでいる。
実家というのは、僕の実家のことであって、
彼の出身については何にも知らない。
そもそも本名も知らないし、年齢も分からない。
それに顔だって見たことがないし、話しすらしたことない。
オペラさんという名前も、
僕が勝手につけた。
けれども男性なことだけは分かる。
いつも家の前を通りかかると、
大きな声でオペラの歌を唄っているのが聞こえてくるから。
唄っていない時も大音量でオペラの曲がかかっている。
よほど歌劇が好きなのだろう。
僕もオペラさんが好きである。
顔や人となりは分からなくても
楽しそうなのが伝わってくるから。
人の “好き”や“楽しい”に触れるのはこちらも嬉しい。
実家からオペラさんの家までは数十メートル。
そのくらいが丁度いい距離かもしれない。
彼のことは好きだけど、正直、隣に住むのは勘弁願いたいと思うから。
人の“好き”は嬉しいけれど、押し付けられるとうんざりしてしまう、
少しそれと似ているかもしれない。
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