2019年4月8日月曜日

モグラ革の手帳







基本的に手帳は持たない。

何故なら、暗記できる程度しか用事がないから。


けれども今回、久し振りに手帳を買ったのは、
少しく予定というやつが賑わってきたからだ。


以前から もし手帳を持つなら
モレスキンのものと決めている。

ヘミングウェイが用いただとか、
ゴッホやピカソが使っただとか、
名だたる名士が愛用したとされるモレスキンのノートであるが、

僕の場合は、いつも同社の手帳を携行したという
紀行文学作家のブルース・チャトウィンへの憧憬を表してだ。


ただし、チャトウィンの著作の中では
モレスキンとではなく「モグラ革のノート」と訳されていたと思う。


きっと元々は名の通り、
モグラ(mole)の革(skin)の表装だったのだろう。

作家仲間であるレドモンド・オハンロンの思い出話の中でも
やはりチャトウィンの手荷物は
「黒いオイルクロスで覆った本物のモグラ革のノートブック」とある。


そういえば作品の中でチャトウィンは愛用のモグラ革ノートが
生産中止だと嘆いていた。

もしかしたら現在は何処か他社がライセンスを買い取って
現行の合成皮革表紙のものを生産しているんじゃないかと思うが、

細かいことは気にしない。
肝心なことはチャトウィン気分が味わえるかどうかだ。


彼の遺作となった『ソングライン』には、
それまで彼が手帳に書き溜めてきた旅にまつわる沢山の覚え書きが
散り散りに配置されている。

僕は暇な時、それらをパラパラひもとくのが大好きだ。




手帳を手にしたところで、
どうせ僕の予定など埋まるべくもなく、
結局 空白だらけになるのだろう。

それならばチャトウィンに倣って、
さまざまな引用やこころ覚えを書き記しておくのも良いかもしれない。


店を持ち、子を持ち、
さらにその店が流行らないとなると、
さすがにおいそれと旅をするわけにもいかぬ。

しばらくは旅の空想を書きしたためて、
机上の冒険を楽しむに留めよう。
彼だってノートにこう遺している。




”放浪癖について最も説得力ある分析をした人物の多くは、
なんらかの理由で移動を制限されていた。
胃病と片頭痛持ちであったパスカルしかり、
薬物依存者であったボードレールしかり、
幽閉の憂き目に遭った十字架のヨハネしかり。
フランスの批評家のなかには、コルク張りの部屋にこもって
執筆に没頭したプルーストを、文学界きっての旅人と呼ぶ者もいる”と。














1 件のコメント:

  1. J WAVE 野村訓市のtraveling without movingというラジオ番組おすすめです。

    返信削除