2018年6月18日月曜日

オールド・ビーカー・ブルース





古いものが好きである。
これはそんな僕が出会った、
なんとも微妙な話なのだ。

そして今回の話題は少し汚い。

不快に思われる方がいらっしゃるかもしれない。

そのことをご理解いただいた上で

お読みいただければありがたい。



さて、何年か前のはなし。


突然の血尿に驚いた僕は、

生まれて初めての泌尿器科というところに
行ってみることにした。

脱ぐかもしれないし、触診などもあるかもしれない。

それはどうにも恥ずかしいということで、

お爺ちゃん先生がやっている病院を隣町に見つけ

そこにかかることにした。

お年寄り相手なら恥辱も少なかろうという算段だ。



その医院は古い建物の2階にあった。

受付の女性が1人、高齢の医師が1人という小さな診療所である。

さて、呼ばれて入った診察室は、

僕にタイムスリップを錯覚させるくらいに年季の入った、
レトロな医療機器で満たされていた。

どれも古道具屋で見たことあるようなものばかりだ。

数十年は機器の入れ替えがないのではなかろうか。
きっとこういう所が廃業すると、古物商に什器が流れるのだろう。

昭和の、田舎の町医者ってこうだったんだろうなと思う。

まるでドラマや映画のセットみたい…

この医師が相手だったら脱いでも恥ずかしくないし、

また古いもの嗜好も刺戟されて、この医院を選んで正解だったかもしれない。


では、まず尿を見てみましょう。

お爺ちゃん先生に促され、僕はお手洗いへと向かった。
が、どうにも検尿用の紙コップが見当たらない。

あの、紙コップはどこですか?


するとおもむろに老爺は答えた。


ビーカーがあるから、それにおしっこ入れて。


確かにお手洗いの入り口には、

年代物のガラス製ビーカーが置いてあった。

とても素敵な、それまで僕が、好んで古道具屋で買い求めてきたような…






古いものを求める際は、それがどこでどう使われてきたか

可能な限りで確認するのが賢明かもしれない。

それ以来、僕は古いビーカーを買うのをすっぱり止めた。


結局 血尿は抗生物質の一錠で治まり、

お爺ちゃん先生へかかることはその後なかった。

暫くして、その医院の前を通りかかると売り物件となっていた。

きっと高齢のため廃業したのだろう。
もともと診療日も少なく、診療時間も極端に短かったのだ。

院内にあったレトロな什器たちも業者に回収され、

今ごろ古道具屋に並んでいることだろう。

いわんや、あのビーカーも…である。








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