2018年5月2日水曜日

珈琲園芸帖



知人のお宅にお邪魔した時、
折角だからコーヒーを淹れてくれという話になった。

もちろんそれは構わないのだが、
ドリップポットが見当たらない。
湯沸かし用のヤカンしかないようだ。

念のため、注ぎ口の細いポットはないかと尋ねたら、
渡されたのはベランダにあった園芸用ジョウロであった。

悪ふざけではない。
きっと天然なのだろう。



ハス口がなくとも
ジョウロはドリップには向いていない。

分かっているのに、それでも引き受けてしまうのは、
ちょっとした遊び心というやつだ。

やりにくさは想像以上のもの。

花に水をやるのと、
コーヒーを淹れるのと、
思いやりは同じでも
勝手はまるで違うのだ。

ピチャッ、 ピチョッ、

ジョジョジョジョジョ!

おぼつかない手つきで
湯を注いでいく。

愉快な苦戦に にが笑い。

奮闘の甲斐あってか、
いや、その場の和やかな空気が呼んでくれた僥倖だろう、

淹れたコーヒーは、
吃驚するくらいに美味しかった。

こころなし草花の香りがしたようなのは、気のせいかしらん。


面白い午後。

日々の淡々のうちに現れる
ちょっと楽しく、そして風変わりな出来事。



いちおう洗ってから使ったのだけれど、
ジョウロの中にはまだ土が少し残っていたようだ。


ここだけの内証の話である。

0 件のコメント:

コメントを投稿