知人のお宅にお邪魔した時、
折角だからコーヒーを淹れてくれという話になった。
もちろんそれは構わないのだが、
ドリップポットが見当たらない。
湯沸かし用のヤカンしかないようだ。
念のため、注ぎ口の細いポットはないかと尋ねたら、
渡されたのはベランダにあった園芸用ジョウロであった。
悪ふざけではない。
きっと天然なのだろう。
ハス口がなくとも
ジョウロはドリップには向いていない。
分かっているのに、それでも引き受けてしまうのは、
ちょっとした遊び心というやつだ。
やりにくさは想像以上のもの。
花に水をやるのと、
コーヒーを淹れるのと、
思いやりは同じでも
勝手はまるで違うのだ。
ピチャッ、 ピチョッ、
ジョジョジョジョジョ!
ピチャッ、 ピチョッ、
ジョジョジョジョジョ!
おぼつかない手つきで
湯を注いでいく。
愉快な苦戦に にが笑い。
奮闘の甲斐あってか、
いや、その場の和やかな空気が呼んでくれた僥倖だろう、
淹れたコーヒーは、
吃驚するくらいに美味しかった。
こころなし草花の香りがしたようなのは、気のせいかしらん。
面白い午後。
日々の淡々のうちに現れる
ちょっと楽しく、そして風変わりな出来事。
いちおう洗ってから使ったのだけれど、
ジョウロの中にはまだ土が少し残っていたようだ。
ここだけの内証の話である。
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