金属探知のゲートが鳴った。
おかしいな、カナモノは全て外したはずなのに。
どうやらズボンのポケットが反応しているようだ。
おいおい、ポケットには何も入っていないよ。
中身を裏返して見せるんだけど、でもやっぱり探知機は鳴る。
空港の職員はカタコトの日本語で僕に「ハシッテクダサイ!」
え?走るの?と思ったけど素直に従ってしまうあたりが生来のいじめられっ子たる所以かもしれない。
その場で一生懸命、走るジェスチャーをしてみせた。
カツアゲをされている気分である。
ジャンプすると小銭がチャリチャリ鳴るやつ。
「持ってんじゃねぇか、ほら早く出せよ」という筋書きだと理解した。
でもごめんなさい。本当に持っていないんです。
それでもお構いなしに職員さんは「ハシッテクダサイ!」
どんなに激しく手足を振ったって、ないものはないのに…
「ハシッテクダサイ!」
「ハシッテクダサイ!」
走ってますって!
今度の設定はフルメタルジャケットですか?と思った矢先…
「ポケットの中、ハシッテクダサイ!!」
!?
なんだ、「走って下さい」じゃなくて「出して下さい」ね。
それなら、サー・イエス・サー!だ。
くまなく探すとポケットの奥には銀紙のカケラが挟まっていた。
恥をかきつつ、いい汗もかいた。
空港が苦手である。
空港に入ると前後不覚に陥っていつも何かしら失敗をしてしまう。
電磁波でも出ているのか、人工的すぎる建物のせいか、
もしくは行き交う人々の上気に当てられてかもしれない。
その空港特有の、所在がなく落ち着かない感じが
旅のドキドキを更に盛り立ててくれるのかもしれないが…
エアポートの為の音楽を作曲したのはブライアン・イーノだ。
この曲がアンビエントの黎明とされている。
ドイツの空港で暇を潰している時にアンビエント音楽の着想を得たと言うけれど、なんのことはない、ただ彼も空港内が落ち着かなくて、ちょっとチルアウトしたかっただけかもしれない。
今度から飛行機に乗る時はイーノを聴いて気持ちを鎮めることにする。
「ハシッテクダサイ」にもう惑わされるものか。
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