地元に一本の峠道がある。
夜ともなれば真っくら闇でめっぽう怖い。
また途中にある霊園が、
その不気味さを何倍にもしている。
実際、そこでのそういう体験談も何件か耳にしているが、
それはまた別のお話としよう。
さて、その霊園。
川端康成、山本周五郎、堀口大学など名だたる文士らが眠っているのだが、
作家の丸谷才一もそのうちのひとりだ。
決して多くを読んだわけではないものの、
彼の軽妙な文才と、確かな日本語力には習うところが大きい。
墓碑には丸谷自身による句が刻まれているという。
【ぱさぱさと 股間につかふ 扇かな】
これはひどい、あまりにひどい。
必要ないだろうが、いちおう解説をすれば、
暑い夏の日に、股間をうちわで扇ぐ……というたったそれだけのことである。
ワビもサビもまるでない。
よりによって、なぜにこの句…
このような洒脱を自分の墓に遺せる文人がいったいどれほどいるのだろうか。
霊園の前を通る時、不気味だな〜なんて思ったら、
丸谷の句をそらんじてみればいい、けっこう楽しい気分になれるはず。
さて7月。
海辺の町にぱさぱさうちわと、怖い話の夏が来た。
体験談を知りたけりゃ直接あって話をしよう。
その手の話は、存外に嫌いでない。
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